4年次に実施される卒業研究では、研究計画の立案、文献調査、研究、結果の分析などを通して、課題発見能力、問題解決能力、コミュニケーション能力を養い、多様化する産業界の要請に対応する技術者、研究者の育成をめざします。今後は自動車関連分野、受動歩行ロボット、製鉄用高炉などの実践的で専門性の高い研究が行われる予定です。
機械?精密システム工学科の学生による卒業研究を紹介します。
受動歩行ロボットに関する研究
現代の歩行ロボットは、高精度なセンサー、高性能なモータおよび高度な制御からなる、最先端テクノロジーの結晶です。ヒューマノイドロボットの歩行はある意味で完成の域に達しています。このような状況でも無視できない存在となっているのが、「受動歩行ロボット」と呼ばれる歩行ロボットです。受動歩行ロボットは、アクチュエータ、センサーおよび制御を一切用いずに、緩やかな下り坂を歩くことができます。受動歩行は、脚軌道があらかじめ決められているわけではなく、歩行機のもつダイナミクスと環境との相互作用のみによって歩容を生成します。また、受動歩行は自然でエネルギー効率が高いことで知られ、ヒトの歩行に近いとも言われています。本研究室では、受動歩行原理に基づいた歩行ロボットを開発しています。また、受動歩行原理からヒト歩行のメカニズムを解析します。
自動運転パーソナルモビリティの研究
「歩く」ことは高齢者の健康維持向上にとても大切なことです。自動運転の技術を活用して「歩く」ことを支援する「自動運転パーソナルモビリティ」を研究開発しています。このモビリティは、元気な時は一緒に歩き、ちょっと疲れたら引っ張ってくれて、そして、疲れたら乗ることができるなどの様々な機能によって、足腰が弱って歩くことに自信のない高齢者でも安心して外出できるような「歩行時のパートナー」となることをめざしています。実験は市販の電動車椅子をベースにして、レーザスキャナーやカメラ等のセンサーとコンピューターを搭載して自動走行もできるようにしています。そして、この車椅子に支援されるとどのくらい歩くことが楽になるのかを、バイオメカニクスの観点から計測しています。最終的には自動運転技術とバイオメカニクス技術の融合による新たなモビリティの実現をめざしています。
組合せ応力における耐熱材料の耐疲労信頼性に関する研究
高温機器の主要部は、熱に強い「耐熱材料」で作られていますが、各部材は実際の機器の使用状況によってさまざまな力学的条件にさらされます。例えば、航空機用ジェットエンジンでは、エンジン回転数の変動や運航中の振動等によって部材に繰返し力が加わりますが、その負荷は一方向の引張?圧縮ばかりではなく、曲げ+捩りというような複雑な力(組合せ応力)を受ける部材も多数存在します。この種の部材の信頼性を確保するためには、使用状況に合った条件で材料の耐久性を調べておくことが重要です。この研究では、高温下で耐熱材料に組合せ応力を繰返し負荷する実験(疲労試験)を行い、き裂がどのような条件で、どのように発生?成長して破壊に至るかを調べます。さらに、電子顕微鏡による破面の観察などにより、組合せ応力の場合の高温における疲労き裂進展の仕組みについて研究します。
先進自動車の有害排出ガスと燃費(電費)低減に関する研究
人類の移動の喜びを実現する自動車からは、地球温暖化の原因の一つであるCO2や有害排出ガスを伴います(WtW※で考えるとEVからもCO2を排出します)。したがって、2050年カーボンニュートラルを実現するため持続可能な社会をめざして、自動車からのCO2や有害排出ガス削減技術に関して以下の3テーマに関する研究を行っています。
1.完成車を用いた燃費(電費)と排出ガス低減に関する研究
2.ディーゼルエンジンの排出ガス低減に関する研究
3.実路走行シミュレーションを用いた燃費(電費)低減に関する研究
※Well to Wheel
自動車の総合的なエネルギー効率を示す指標
自動車の高周波車内騒音予測技術の研究
自動車の車内には、エンジン音、タイヤ騒音、風きり音などさまざまな騒音が入ってきます。これらの車内騒音を予測する技術について研究します。具体的には、市販のハイブリッドSEA(統計的エネルギー解析)ソフトを用いて、解析モデルの作成、実験計測結果と計算結果の比較、部品変更による音響特性の変化と車内音の変化の関係等を研究します。
弦楽器(ヴァイオリン)の振動?音響特性の研究
弦楽器は職人や工場で生産されていますが、過去の経験や職人の勘などによって製作されているのが実情です。構造(形状)?材料をどのように変更したらどのような音(振動)が出るか、などを実験やCAEを用いて工学的に研究します。
アルミニウム合金の消失模型鋳造法における湯流れに関する研究
消失模型鋳造法とは、発泡スチロール模型を乾燥砂中に埋没させ、そのまま溶融金属を注入し、模型の熱分解による空洞に溶融金属が流入して、鋳物を得る方法です。本研究室では、発泡模型にコーティングする塗型の通気度によってアルミニウム合金溶湯の湯流れ速度がどのように変化するかについて、タッチセンサーを用いて実験的に検討し、また熱電対を用いて湯流れ中の溶湯温度を測定し、湯流れ方向への溶湯温度低下に及ぼす塗型の断熱性や湯流れ速度の影響について検討します(上図)。さらに、本研究室で提案した湯流れモデルを用いた計算値と実験値を比較することによって理論的にも検討を行います(下図)。
製鉄用高炉の羽口先燃焼帯における流動現象に関する研究
微粉炭を燃焼させて熱源としている製鉄用高炉で排出されるCO2削減のために、微粉炭に代えて天然ガスやバイオマスを吹き込んだ場合を想定して羽口先の現象の変化を見る研究です。高炉の縮小模型(コールドモデル)実験装置を使って固体粒子(コークスを想定)充填層にガスや粉体を吹き込んだ場合のレースウェイ(固体粒子が送風で吹き飛ばされて循環し、空隙率が高い空間ができる)の生成と固体粒子の流動挙動を調べ、吹込み径、風速、吹込み物質の物性値の違いがレースウェイ形状や大きさにどう影響するかを実験します。また、羽口部分の断面形状が観察できる2次元模型と実高炉同様円周方向に複数の羽口を設けた3次元模型を用い、2次元と3次元の実験特性の違いを把握します。
高温ガスからの伝熱による固体の昇温と溶解挙動に関する研究
製鉄用高炉では、炉頂から装入された低温の固体粒子(鉄鉱石)が下方から上昇する高温ガスからの伝熱により昇温し、溶解します。この伝熱の効率が生産性やエネルギー原単位に大きく影響します。高温ガスから炉内の固体への伝熱と昇温?溶解のメカニズムや支配因子を、模型実験や計算機シミュレーションを行って検討しています。将来、高炉でなく化石燃料を使わない(CO2を排出しないカーボンニュートラルの)水素還元炉で製鉄するプロセスにも応用できます。
電動機/発電機の信頼性向上に関する研究
静止しているものから動いているものに、擦れながら電気を供給する機構を電気摺動接触機構といいます。この機構は電動機や発電機において、ブラシ/スリップリング(整流子)として用いられ、電動機の回転や発電機の発電を成すための重要な部分です。すなわち、ブラシの通電性および耐摩耗性の向上は、電動機や発電機の高信頼性に繋がります。そこで、ブラシの摺動通電現象を解明するため、摺動試験装置を用いた試験および解析を行っています。また、電動機を省エネルギーかつ滑らかに運転する制御に関する研究も視野に入れ、パワーエレクトロニクスを用いた電動機の高効率運転も検討しています。
自動車の運転操作における高齢者の身体特性の特徴を明らかにする研究
これからの日本は世界でも類をみない高齢化社会になります。人生100年時代と言われる超高齢化社会で経済を持続的に活性化させるためには、高齢者にも労働力という役割が求められます。そして、そのためには日本の新しい時代の到来に備えたモビリティ(乗り物)などの技術の創出も必要です。この研究は、人間工学の観点から、医学分野と工学分野との連携を通して高齢者の身体特性の特徴を明らかにし、高齢者になっても若年者と同等の運転操作能力が実現できる技術の創出を目的とします。研究過程での高齢者の身体特性の特徴の抽出には、コンピューターシミュレーションを活用します。
AR技術を用いた日常活動のDX化に関する研究
SDGs※1によりDX※2化が叫ばれていますが、キーボードやマウスを使用してOfficeソフトや3次元CG/CADソフトを使用することは意外と難しいです。
本研究ではAR※3技術を用いて、Microsoft OfficeアプリケーションのPowerPointやExcel操作をブロック配置と音声のみで想定したファイルを作成する研究や、何もない空間に直接描画することで思い通りの3DCGモデルを機械学習で作成?予想する研究を行います。
※1 Sustainable Development Goals
※2 Digital Transformation
※3 Augmented Reality
ヒューマンエラーを回避するためのインターロックシステムに関する研究
世の中はヒューマンエラーにより悲惨な事故が多数発生しています。本研究では先行研究のモジュラーロボット、AR技術、画像処理技術を組み合わせた簡易的なインターロックシステムを提案しました。その後、整頓作業を想定したときのインターロックシステムの稼働を調査しています。
NC工作機械の運動特性評価システム
我々の身の回りにある多くの製品、特に車やプラスチック製品の生産過程では、「金型」が用いられています。この金型の製造過程には「設計」「NC工作機械による加工」「磨き」などが含まれていますが、その工程の多くを占める「磨き」作業は、NC工作機械による加工結果の影響を大きく受けます。そこで、この「磨き工程」の工数を削減するため、NC工作機械の高速?高精度化に関する研究?開発がこれまでも活発に行われています。本研究では、これらNC工作機械への要望に大きく寄与する送り軸の高速?高精度化に注目し、その測定装置と運動特性を評価するための測定技術に関する研究?開発に取り組んでいます。
運動誤差の加工面への転写特性
本研究では、NC工作機械の送り軸運動誤差が加工面に対しどのような影響をおよぼすのか、その転写特性に注目し調査を行っています。ここでは、送り軸の運動方向反転時における運動誤差に注目し、その加工面への転写特性について調査を行いました。その結果、加工面に対し凹形状の運動誤差に対し、凸形状となる運動誤差は加工面へ転写されづらいことが分かりました。こういったさまざまな送り軸の運動特性と加工面への転写特性の調査を進めることで、運動誤差による加工誤差を効率的に補正する機能の開発に取り組んでいます。